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「Blossom」(リカルド×ルカ) A5/FCオフ/P.60/¥600 <内容> ともに過ごすうちに、変化していくルカに対するリカルドの心境── 本編沿いですが、捏造多々です <本文サンプル> 一、ナーオス基地脱出後 パチパチと爆ぜながら、踊る炎を前にして、リカルドは吐息した。 おかしなことになったものだと思う。 ポケットに手を突っ込み、確かな重みを確かめる。 布に丁寧に包んだ、仕事の報酬。 細かい彫刻をあしらったプラチナの土台の中央に子どもの拳くらいはありそうなサファイアが埋め込まれ、その周囲をダイヤとルビーが彩る高価な品。 今さら、依頼を反故にしようものなら、借金地獄に陥るのは自明の理だ。 「……」 ちらりと眠る『仲間』たちを見やる。 それぞれが思い思いの格好で深い眠りに落ちている。 疲れきっているのが、眠る表情からも伝わってくる。 いくら前世の記憶があり、天術が使えるからといっても、身体は前世のものではない。 あくまで、神ではなく、人の身だ。 身体的にも天術によって強化はされているが、前世の記憶に合わせて力を使おうとすれば、どうしたって身体に負担が出るのを避けられない。 (…特に) 薄いブランケットに包まり、身体を丸めて横たわる少年に目を向ける。 身の丈ほどもある大剣は、少年の右側に横たわっている。 白銀の髪が夜風に吹かれ、さらりと揺れるさまが、オレンジ色の炎に照らされている。 「……」 リカルドはス、と目を細めた。 頼りない華奢な子どもが、あの偉丈夫であったアスラの転生者とは。 ヒュプノスの記憶の中のアスラと、目の前の子どもを、試しにとばかりに頭の中で重ね合わせてみる。 けれど、どうにもしっくりとこない。 当然か、と小さく笑う。 あまりにも、二人は違いすぎるのだ。 容姿も性格も眼差しも。 似ているのは剣捌きくらいのものだ。 もっとも、それは天術という形となったアスラの力なのだから、似ていて当たり前なのだけれど。 (俺とて…ヒュプノスとは違う) 覚醒する前から身につけようとしてきた、銃の腕。 これは、ヒュプノスの力ではない。 覚醒してからも鎌を武器にしようと考えたことがないのは、ヒュプノスの力に頼りたくなかったからだ。 力が、欲しくなかったわけではない。 けれど、物心ついた頃には、目の前に提示されるのが傭兵という道しかなかったとはいえ、努力を重ねてきたのは己自身だ。 転生者として覚醒し、天術という力を得たからと、それに頼ることは、己の過去を踏みにじる行為のようにリカルドには思えた。 だからこそ、リカルドにとって、ルカ・ミルダは共感を持ちづらい人間だった。 理解は出来る。 分析も出来る。 が、納得は出来ない。 前世であったアスラばかりを追い求める姿には共感出来ない。 それは現実を見据えないことと同義だ。 現実を見つめない者は、先へは進めない。 (…確かに、アスラという存在が偉大であるのはわかるがな) それまで誰も為しえなかった天上の統一を成し遂げた、唯一の存在。 それがアスラだ。 ヒュプノスを簡単に退けたほどの圧倒的な力が、リカルドの脳裏を過ぎる。 焦がれる気持ちはわかる。 まして、十五歳といえば、強さに憧れを抱く年頃だ。 特にルカの場合、自分に自信をまったく持っていないだけに、不遜なまでに自信に満ち溢れているアスラの姿は、さぞ輝かしいものとして、あの翠の目には映っているのだろう。 (知るべき、だろうに) ルカの両隣で眠るスパーダとイリアを、リカルドは一瞥した。 二人ともよく眠っている。ナーオス基地から逃げ出してきた彼らの眠る顔には、疲労が色濃く滲んでいる。 それでも、殺気を向ければ、二人は即座に目を覚ますだろうが。 (特にベルフォルマは…俺を信用してはいないからな) 守りたいからだろう。誰よりも、ルカ・ミルダを。 実際、ナーオス基地から脱出するときにも、戦いに不安のあるルカを守るように、スパーダは真っ先に敵に向かって飛び出していた。 それをミルダ自身がどこまでわかっているのやら、とリカルドは吐息した。 アスラとデュランダルの関係にあったから。その程度にしか思っていなさそうだ。 ベルフォルマも報われないな、と苦笑する。 (本文P.5〜P.6抜粋) |