毒にもひとしい恋をする |
白銀の髪に手を伸ばす。 さらりと髪を揺らし、振り返った少年の名を、リカルドは口にした。 ルカ、と普段は呼ばない、ファーストネームを。 少年にだけ与えられた名前を。 ルカがちょっと驚いたように目を見開いてから、嬉しそうにはにかんだ。 その笑顔があまりに愛しくて、リカルドは小柄な体躯を抱き寄せ──目が覚めた。 夢、だったらしい。 馬鹿馬鹿しくてため息も出ない。涙も出ない。 「…阿呆か、俺は」 一体、どこの思春期のガキだ。 二十七の男が見る夢ではない。 まして自分のような強面があんなピンク色の花が咲き乱れるような夢を見たなどと言ったら、薄気味悪がられるのがオチだ。 リカルドは頭を振り、起き上がった。 そして、気配を感じ、横を向き。 「……」 同じく、ベッドで上半身を起こし、目を見開いているルカと目が合った。 頬どころか、耳まで真っ赤に染め上げ、胸の辺りをしっかりと握っている。 あくあくとルカの唇が開閉するが、言葉は何も出てこなかった。 それでも、リカルドはルカに何が起きたか──正確には、自分が何をしたかを知った。 「……」 言葉が何も出てこない。 この場合、どうするべきだろうか。 何やら頬が熱いのは気のせいだろうか。 「……ルカ」 おそらく、寝言で無意識に口にしてしまったのであろう名前を、今度は意識して口にする。 声にならない悲鳴をあげ、ルカが布団を頭から被って、ベッドに潜った。 丸く膨らんだベッドをしばし見つめる。 「……」 参ったな。リカルドは目を右手で覆い、天井を仰いだ。 参った。寝ても覚めても、これでは。 「ルカ…」 吐息に混ぜる。 ビクリと隣の塊が跳ねた。 くくく、と喉奥で低く笑う。 夢の中のように、ルカが笑ってくれるには、相当の時間が掛かりそうだ。 けれど、それを試すだけの価値はある。 (覚悟しておけ、…ルカ) 少しずつ少しずつ、まるで毒への耐性をつけるように、名を呼ぼう。 俺がルカという名の毒に夢も現実も侵されているように。 火照る頬を自覚しながら、リカルドは楽しげに喉を鳴らして笑った。 END |